投稿日時:2014-12-16 11:30 AM

お年寄りがカメラアプリに望んだものは? – その声を元に一晩でプロトタイピング

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 ITふれあいカフェでは、日々訪れる地域のお年寄りにスマホやタブレットの使い方を教えていますが、真の狙いは、高齢者の声を製品開発に反映させる仕組みを作ることです。その一つは、企業から開発途上の製品やアイディアの検証を受ける事業であり、他方では、我々も自ら高齢者向け製品の開発を手掛けようとしています。

 その第一弾として2014年11月、ITふれあいカフェ肝付で高齢者を交えたハッカソンを開催しました。「みんなのカメラ」と題して、日頃使っているiPad Airのカメラの使いにくい点を挙げ、その改善案のプロトタイプを翌日に検証してもらう2日間です。

「わからないのがわからない」- 高齢者の声をヒントにアイディアソン

 まずはアイディアソン。普段iPadで撮影をする際に困ったことを参加者から教えてもらいました。単に聞くだけでは有効な意見は出にくいものです。そこで実際にお年寄りに撮ってもらい、その様子や何気なく発せられた言葉、撮影された写真から分かる特徴などを他の参加者が付箋に書き分けていきます。撮影のお題は、テーブル上のオブジェを撮る、人を撮る、自分を撮るの3つです。

 数多くの意見を集約すると、以下の傾向がありました。
1,勝手に連写される
2,ブレる
3,シャッター音が聞こえない(高齢者の耳には)
4,カメラロールへの導線が小さくて分かりにくい
5,(3と4と合わせて)撮れたかよく分からない
6,知らないうちに動画やスクエアに切り替わっている

 UXを考える上での大きな発見は、女性参加者(おばあちゃん)の間で「自撮り」が盛り上がったことです。最初は「自分を撮ってみましょう」と促したものの、恥ずかしがり、「シワが目立つなぁ」、「白髪がなぁ」と浮かない表情。しかし、「もっと若く写る方法があるんですよ」とか「何度でも納得いくまで撮れますよ」などと説明すると、顔の角度や明るさ(露出)を気にし始め、「もっと若返って撮れるかな」、「孫と一緒に写れるね」と急に積極性が増しました。そのままのUIとはいかないでしょうが、「可愛くする系のカメラアプリ」は高齢者にもニーズがありそうです。何歳になっても女性なんだなと。

紙とアプリでプロトタイピング

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 さて、お年寄りの皆さんが帰られた後、アイディアソンの延長としてメンバーを2チームに分け、各自プロトタイピングを行うことにしました。
・チーム地鶏(=自撮り) …お年寄りが自撮りしたくなるカメラアプリ
・チーム黒豚(※鹿児島なので) …標準のカメラアプリのUIや機能をお年寄りでも使いやすいよう単純化

 プロトタイピングとは、実装のイメージやデザインの方向性を決めるための見本づくりのこと。ここが上手く作れれば、エンジニアがコードを書く工程で無駄なやりとりを省けます。また、大まかな動作イメージをクライアントや関係者間で簡単に共有することもできます。

 今回プロトタイピングは二つの方法を採用しました。まずはペーパープロトタイピング。原寸大のiPad Airが描かれたA4の用紙に大きさも意識して各パーツを手書きし、導線のイメージを紙芝居のように並べていきました。次に、株式会社グッドパッチが開発したプロトタイピングツール「Prott」でデジタル化していきます。先程の用紙に書いたものをProttのアプリからカメラで取り込み、動作の箇所やその方法、遷移先を指の操作で簡単に指定。それぞれが、テーマに沿って理想とするアプリのUIと画面遷移を作成しました。

今回のペーパープロトタイピングで使った原寸大のiPad Airが描かれたPDFデータをアップしておきます。(CC-BY 株式会社たからのやま)

ハッカソン…?

若狭さん

 ハッカソンといいながら、今回開発らしいことが出来るのは、講師役として我々が招聘した若狭正生さんのみ。時間も限られているため、プロトタイプから、シャッターの動作に限定して実装をしていきました。

 若狭さんが夜なべして作成したのは、以下のトリガーでシャッターが切れる仕組みでした。
1,プレビュー画面から指を離すとシャッター動作
2,プレビュー画面を触るだけで即1回のシャッター
3,プレビュー画面を触るとカウントダウンして3秒のセルフタイマーが作動
4,シャッターボタンがスワイプで動作(タップだとブレやすいという意見を元に)

 翌日、この4つの機能のみを実装したα版を再びお年寄りの方たちに体験してもらいました。どれが一番好評だったでしょうか? 結果を知りたい方は動画をご覧下さい。

 参加してくれたお年寄りの方の感想で印象に残ったのが、「そんなことが出来るんだ!」という声でした。これは、個々のシャッターの動作のことではなく、サードパーティがアプリを作り、それを自分が持っているiPadでも使えるようになるというApp Storeを中心としたアプリ開発のエコシステムに対して、しかも、そこに自分の意見まで反映されうるという世界観全体に対するものでした。

 今後、徳島でも検証を行い、その結果を元にしたアプリ開発を行う予定です。

番外編:Moff Bandで遊ぶおばあちゃん(https://www.youtube.com/watch?v=dpxaCAjTnmc