投稿日時:2013-12-02 10:30 PM

高齢者へのiPad導入を阻んだiOSのUI/UXの話

 先月(2013年11月)、徳島県南部局と美波町が共催する「ITふるさと村」の講座で、iPadを使ったタブレット講座を開催しました。その成功と失敗の体験について書こうと思います。

 Facetimeビデオ通話のデモで会場を一気に盛り上げたものの、参加者に実際に体験してもらう段階で「大失敗」。AppleIDの取得とそのためのiCloudメールの登録をしてもらってから、と進めたのですが、30名ほどの参加者のうち時間内にゴール出来たのは、たったの1名。好きなアプリをダウンロードしてもらい、タブレットの楽しさを感じてもらう目標が、そのスタート地点にも立てず(;_;)

 企画や運営、インストラクターとしては完全に落第点でした。それを棚に上げると、高齢者とITに関する課題が大量に見えたという点では、ある意味「大成功」だったとも言えるでしょう。

【講座内容】
 30人の高齢者(初心者から、既にAndroidタブレットを持っている人まで多様)にiPadの操作とAppleID・iCloudメールの取得、AppStoreから無料アプリのダウンロードまでを1時間半で行う。

【結果】
 完了したのは1名のみ。大人数で同時にアカウント取得など初期設定を行う作業は無理。

【原因と検証】
1,主催者がレンタルした実機、実際の会場のネット環境でアカウント取得のテストを行うべきだった。
※仮にテストで成功したとしても、同時接続によるネット環境の遅さ、AppleIDが同一のIPから複数同時に取得できない問題への対応を考えると本番で成功する保証はない。
2,習熟度の早さの違いに対応出来なかった。
私以外にも3名のサポート・スタッフ、さらに自治体職員の方までも手伝ってもらったにも関わらず、結果的に一杯一杯な状況を作ってしまった。

【対策など】
 今後は、より少人数での開催を。オススメの端末なども、家のネット環境や用途など個別事情が多すぎるため、一筋縄ではいかない。家にWi-Fiがあり、家で使いたい高齢者に、わざわざセルラー版を買わせるのは避けたい。


iOSのUIの話

 ここからは各論として、高齢者の様子を観察して、彼らがつまずいた箇所を色々と。高齢者目線に立つと、iOSのあのシンプルで「直感的な」インターフェースは不親切極まりないようです。特にボタンなどインターフェースに関わる部分が小さくてタップ出来ない人が初心者の方には多かったようです。操作系は慣れの部分が多いとは思いますが・・・

1,アプリのダウンロード
 AppStoreからアプリを選択して出てくる画面、ここから先の導線が分からない。「正解」である「無料」という箇所が、ボタンのようなタップできるデザインになっていない、しかも小さ過ぎる。

2,ナビゲーションバー内のボタン
 右上に表示される「次へ」などのボタンが小さい。普通にhtmlのフォームのような大きなボタンにならないものか。ダイアログ内を読んだり入力したりした後に、彼らの目線は右上に向かない。

3,反応が分からない
 Wi-Fiに接続させるため、任意のSSIDを選択してもらったのだが、読み込み中を示す回転するアニメーション(「throbber」)の意味が彼らには分からない(しかも小さい)。自分の操作が間違っているのか、ネットがたまたま遅いだけなのか、iPadが壊れているのかすら分からない。無事に接続できたとしても、チェックマークがさり気なく付くだけでは分からない。ゲームのように「無線LANの接続が完了しました! 次はxxxの設定をしましょう。『次へ行く』」みたいなダイアログを表示させるべき。

4,セキュリティ
 必要があってセキュリティを強固にしているわけだが、メールアドレスに当たるユニーク(一意)なIDと、パスワード(Appleの場合、半角大文字を一つ、数字も入れて。同じ文字を3回続けてはいけない。)の入力のハードル。

 携帯電話の販売店が、Androidの購入者にGoogleアカウント(GMail)取得用のIDとパスワードを書かせるという「事件」がかつてあったが(今やっているのか分からないが)、高齢者にメールアドレスと、付随するそれなりに複雑なパスワード決めて入力させるのは、困難を極める。かと言って、見ず知らずの店員に全てを教えるのもセキュリティ上の懸念を生じさせる。その後のパスワードの直し方を知らない。信頼出来る誰かが代行するのがいいのだろうか。

5,秘密の質問
 この項目には、過去の事象を入力させることが多い(例:中学校の時の親友の名前)が、これを見た高齢者が一言。「そんな古いこと覚えてないよ(笑」

6,緊急連絡用のメールアドレス
 AppleID取得時に聞かれる緊急連絡用のメールアドレス。そもそもメールアドレスがないからiCloudメールを取得した上で、AppleIDを取得しようと試みているのだが・・・


 最後は弊社代表の奥田とともに潔く謝り閉幕しましたが、奥田によると、
「こんな不甲斐ないワークショップだったのに最後に、『私達を見捨てないで、また教えに来てね…』とおばあちゃんに言われました(涙)」とのこと。

 タブレットは高齢者にも簡単と言いますが、本当に楽しんでもらうための前段階のハードルはとても高いです。会場には某キャリアのタブレットを持参された方もいました。話を聞いたところ、「以前携帯電話会社の人がタブレット講座を開いたので買ったけど、それっきりでもっと活用法を知りたくて来ました。」という。

 タブレット講座というパッケージでは、やはりID登録系・設定系は飛ばし、楽しませることに重点を置く方がいいのかもしれません。その合わせ技で、購入時にGoogleアカウントとパスワードを紙に書いて提出という販売店のフローも、(売る側にとっては)理があるということも理解出来ました。

 ただし、それでいいのかという気持ちは拭えません。私達は特定のタブレット端末を売ることよりも、その先の未来に向けたビジネスと地域の発展の可能性を見ています。

 ともかく達成出来なかった部分は参加者や主催者にも申し受けない気持ちでいっぱいです。リベンジしなくてはいけないので、年末年始に少人数の特別編を何回も開催するか、戸別訪問してでも何とかします! コーヒー飲みながらとか、あるいはコタツに入りながらとかがいいなあ。