丹波栗

投稿日時:2012-10-22 5:24 PM

Iターン族が挑む新しい丹波の農と食

 丹波(たんば)地方は、兵庫県の北部・篠山市と丹波市、京都府の北部・福知山市などが含まれ、戦国時代には明智光秀の領地として知られる。大阪からの入口に当たる篠山へは、大阪市街から電車・車ともに約1時間の距離。
 丹波には目立った観光地はないものの、秋の季節は、丹波栗、黒豆に代表される高品質食材の宝庫となる。この環境に惹かれ、Iターン者が集まり始め、彼らが作り出した人の繋がりから、地域が少しずつ変わろうとする兆しが見える。今回は、食と人を中心に3人の若者を取り上げる。(取材:2012年10月)

在来種による有機農法に取り組む竹岡正行さん

竹岡さん
竹岡正行さん 雨のため、作業場兼趣味の自転車のガレージにて

 大阪で教育学と社会福祉を専攻した竹岡正行さんは、3年前丹波の山奥に移り住んだ。有機農法による米や野菜は市場に流通させず、契約した個人・店舗向けに直販をしている。(竹岡農園のwebサイト

 一般的に使われている種はF1種と呼ばれ、必然的に農薬や化学肥料を必要とする。一方、固定種(在来種)と呼ばれる種は有機農法に向いている。有機農法をF1種で行なっても、成功しない。(種の話、詳細は野口種苗のサイトで)

 また、一口に有機農法といっても、肥料の与え方を間違えると、決して健康的な作物は出来ない。農法次第では、肥料そのものさえ不要になると竹岡さんは言う。

 竹岡さんの野菜には、エグ味がない。噛むとストレートに味が伝わるのではなく、じんわりと甘さが口に広がる。調理のしようがないとまで言われ、料理人泣かせの素材でもあるそうだ。

ラーメン店を畳んで丹波に野菜レストランを開業した藤本傑士さん

三心五観の藤本さん
三心五観の藤本さん一家とスタッフ

 地元の味を訪問者が楽しめる場所も出来た。

 神戸にある潮ラーメンの名店「しゅはり」の創業者である藤本傑士さんは、その経営権を譲り、丹波市の春日地区に昨年家族でやってきた。化学調味料を使わないラーメンを提供していたことから、食文化・食経済そのものへの探求が深まる。2012年の8月、自家菜園で採れた野菜だけを中心にした野菜レストラン「三心五観(さんしんごかん)」を開いた。

 藤本さん自身は決して菜食主義者ではないが、野菜を食べることや、併設の農園で野菜を採る体験を通じて、食についてもっと知ってもらいたいという思いがある。例えば、飢餓は世界中に存在する。1kgの食肉を生産するには11kgの飼料が必要になる。日本の食料自給率はカロリーベースでは39%である一方、1/3の食料が廃棄されている。などなど。

 こういった状況を改善する方法の一つは、もっと地の野菜を食べる習慣を身につけることである。都会にいると、頭で知っているつもりのスローフード、地産地消、フードマイレージ…などの言葉が、現地で体験してこそ、理解出来る気がした。

 レストランは予約制で一人1800円。詳しくは、三心五観のwebサイトを。

「三心五観」 〒669-4252 兵庫県丹波市春日町下三井庄159-1

日本酒Barのオープンを目指す安達鷹矢さん

安達さん

 大手IT企業・楽天を退職して丹波に移り住んだ安達鷹矢さんは、今年25歳。

 篠山に知り合いが偶然いたことに加え、篠山城や古民家のある風土に惹かれ移住を決意した。今はNPO法人北近畿みらいで観光PRに従事。個人プロジェクトとして、譲り受けた古民家を改修し来春を目処に日本酒Barのオープンを目指している。

 さらに、地域で開設が予定されている田舎暮らし体験住宅の管理人として、今後の移住予備軍を増やす取り組みにも関わっている。

前川さん
株式会社M&Gを経営する前川進介さん

地元・Uターン組の経営者も動き出す

 そんなIターン族との交流から、地元の若手経営者の中にも変化は起き始めている。

 蒸留精製した木酢液「爽美林」を販売する株式会社M&Gを経営する前川進介さんは、新しい事業ドメインとして「みんなの村」プロジェクトを構想している。「みんなの村」は、丹波が抱える社会問題(山林・竹林の荒廃、耕作放棄地の拡大、鳥獣被害など)を解決しつつ、そうした自然由来の商品を都市部の子育て世代に提供するビジネスだ。

 篠山市で内装業「サロンテリア大林」を営む細見勇人さんは、以前から広告宣伝をほとんどしない読み物としてのチラシを定期的に配送、地元の人に「捨てられないチラシ」として親しまれていた。それをさらに発展させるべく、今春から、ネット上と実地で新しいコミュニケーション戦略を始めている。

 まずは店舗を改装し、地元の人が集まれるスペースを設置。また、これまでチラシで培っていたコミュニケーションのスキルを活かし、Facebookで繋がった地元の主婦を中心としたコミュニティづくりも支援。地元主婦層からの絶大な信頼を得て、受注も増えているそうだ。

 「狙っているわけではない。純粋に応援したり、喜んでもらおうと頑張ったりすることを真剣にやれば、勝手に仕事が入ってくるんではないかと信じ始めているところ」と優しい笑顔で細見さんは語ってくれた。

都会の人との接点を増やす活動を継続して行うこと

枝豆の収穫枝豆の収穫体験

 前川さんに誘われて、週末に開催されていた「たんばなう」というイベントに同行した。取材当日は、京阪神の人を呼んで、マコモと黒豆の収穫体験に、丹波地鶏親子丼の商品開発ワークショップが開催されていた。これは、兵庫県の「ビジョン委員会」とも連携し、民間主体で都会の人との接点を増やす取り組みだ。

 マコモはイネ科の多年草。芽(写真下部)はマコモダケと呼ばれ、食べることが出来る。この地域では、マコモの「葉」(写真上部)に当たる部分を乾燥・焙煎させ、茶としての商品化を検討している。マコモ茶は、苦味もないマイルドな風味で、血糖値の抑制効果があると言われている。

 枝豆は、根本を枝切り鋏で裁断。根本に近い部分にサヤがたくさん隠されている。都会の人にとって、枝についた枝豆を見る機会は少ない。体験収穫イベントを行うと、枝付きのまま持って帰りたいという声が毎回参加者の中から上がるが、自宅での手間を経験すると、次回からはサヤの状態を欲しがる。

 こういう感覚が持てるのも、体験収穫の魅力だと思う。

丹波は食と人に可能性あり!

参加者全員でマコモを収穫した参加者全員で記念写真

 丹波は、大勢の人が観光で訪れるような場所ではない。一方、可能性は食と人だ。また、それほど都心から遠くないところの田舎というメリットもある。こういった資産を活かし、アグリツーリズムやIターン・Uターンを促進していけるのではないか。

 行政(市)の積極性が見られないのは残念だが、行政に頼りきっている時代でもない。食をフックに人繋がりで数珠つなぎに呼び込む。丹波との関わりを増やし、まずは何回でも来てもらえるように。

 そのキーパーソンが、前の記事で紹介した横田さんだ。丹波に興味を持った人は、横田さんを中心に運営しているFacebookページを一度見てもらいたい。もっと興味を持った人には、直接私から横田さんを紹介します。