てごネットツアーの参加者に自己紹介をする安達智子さん

投稿日時:2012-12-03 10:00 AM

B級なんて生産者に失礼!A級グルメで注目を浴びる島根県邑南町

 邑南町(おうなんちょう)は、A級グルメ立町を標榜している。A級グルメとは決して高級食材を意味するのではなく、同町で生産される良質な農畜産物を素材とする、ここでしか味わえない食や体験を指す。

 この一環として2011年より始まったのが「耕すシェフ」制度。野菜などの栽培から調理、食関連での起業を目指す研修制度である。この人材採用の枠組みとして地域おこし協力隊が活用され、現在5名のスタッフが研修を受けている。地産地消メニュー提供の場、彼らの研修の場としてレストラン「味蔵 ajikura」も作られた。

 「耕すシェフ」制度の評価は高く、今年になり、受賞が相次いでいる。

2012年9月4日、総務省と全国過疎地域自立促進連盟による「過疎地域自立活性化優良事例表彰」で、総務大臣賞受賞。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei10_02000017.html

2012年09月9日、起業支援のNPO法人ETIC.が主催の「地域仕事づくりチャレンジ大賞2012」で審査員特別賞受賞。
http://blog.canpan.info/tegonet/archive/240

地域おこし協力隊を活用した「耕すシェフの」取り組み

邑南町p
味蔵で出された地元野菜のフェトチーネ

 邑南町が注目を集めているのは、これが初めてではない。1993年、都会の若い女性を対象とし、香木の森公園ハーブガーデンに1年間住み込みで農村体験をしてもらう研修制度を設けた。農業ではなく、ハーブ栽培という見せ方が都会の若い女性にヒット。この取り組みは、ハーブガーデンでの研修に加え、農業研修にも発展。これまで、定住者が22名、町内で結婚した人は16名に及ぶ。また、結婚した研修生たちに25名の子どもが誕生し、現在、19〜64歳の生産年齢人口は増加している。

 2010年に出された農林商工等連携ビジョンによると、同町は5年間で、100万人の観光客誘致、200人の新規定住者獲得、5名の起業家排出を目標にしている。

 耕すシェフ第1期生の安達智子さんは、2年半勤めた都内のネット広告代理店を退職し、邑南町にやって来た。学生時代から農業に関する学生団体に関わり、農業や食に関心が高かったが、NPO法人「農家のこせがれネットワーク」の活動を通して、耕すシェフを知ったことがきっかけだった。

 今は、アイディアを形にできる環境に感謝していると語り、将来は移動カフェの運営や、地域プロデューサー、生産者と消費者の距離を縮める活動などを行なっていきたいそうだ。耕すシェフ(地域おこし協力隊)制度は、自分の夢や目標をかなえるための1つの手段と評価している。

「昔から興味があると行動する子なので、応援しています。」

邑南町
11月15日に東京・神田で開催された邑南町の「耕すシェフ」報告会にて

 11月15日には都内で邑南町主催の耕すシェフ報告会が開催された。来場していた安達さんのお母さんに話を聞くと、
「耕すシェフという言葉も初耳で、邑南町に行くと聞いて最初はびっくりしました。でも、昔から興味があると行動する子なので、応援しています。」

 ネット広告代理店の経験を活かし、Ustreamやブログなどでの情報発信も得意とする。「農」が出来ることによる自立、若者が敢えて田舎を選ぶライフスタイルを発信している。

 邑南町の施策には、スーパー行政マンとして知られる邑南町役場商工観光課の寺本英仁主任の存在が大きいという。他の地域を取材しても感じることだが、中山間地、つまり田舎であるほど、公務員あるいは首長主導で面白い事例が出る。これは仮説ではあるが、こういった地域では行政に危機意識が強いこと、また、利害調整者が少なく、意思決定が迅速に行われることが理由と思われる。

 田舎は概ね、どこへ行っても同じような課題があり、一方、美しい自然とその産物という資産を持っている。しかし、その課題解決に一つとして同じ解はない。なぜなら、そこに住んでいる人が全く違うからだ。元気な地域に共通して言えるのは、何かを為そうとするリーダーと、それを支える人々の存在がある。

 地域間競争の時代に入っている。全ての地域を救うことは出来ない。これからますます伸びる地域と沈む地域の格差は大きくなるだろう。過疎化という言葉が生まれたのは島根であり、その先端事例が島根から生まれるのも不思議ではない。