メンタリングを受ける参加者

投稿日時:2013-04-22 8:00 AM

沖縄に「起業」文化は花開くか – Startup Weekend Okinawa

「お金はあるのだけど…」本土と異なる沖縄のIT事情

 地域活性化を語る上で、沖縄は他県とは事情が異なる。内閣府の「高齢社会白書」によると、平成23(2011)年現在の高齢化率は沖縄県が最も低く17.3%。最も高いのは秋田県の29.7%だ。若年層の多さだけでなく、本土からの流入も影響を与えている。人口増が起きているのは、全国でも東京都と沖縄県だけだ。

 そして何よりも「お金」、政府から降りてくる交付金の存在だ。取材で話を聞くたびに関係者は、「お金はあるのだけど…」と口を揃える。「沖縄振興計画」は、1972年の本土復帰以来続けられてきた。2012年3月の沖縄振興特別法改正により、内容面では沖縄の自主性を重んじる形となったが、同法に基づく「沖縄振興交付金」は、今年度も予算案で約3000億円が計上されている。

 ITに関して県は平成10年(1998年)、沖縄県マルチメディアアイランド構想を発表。情報通信産業を県の中核産業の一つと位置づけ、税制優遇などの制度を充実させている。また、2002年に策定された「沖縄経済振興21世紀プラン」では、情報通信産業分野における企業立地及び雇用の確保が明記され、ITが重点分野として挙げられている。そのため、コールセンターで多くの雇用を生み出している他、ソフトウェア開発、データセンター等のビジネスが堅調である。

沖縄の海を眺めながら、週末かけてガッツリとビジネス構築

審査の様子
審査員。ネットイヤーゼロ取締役・倉重宣弘氏(奥)、MOVIDA JAPANチーフアクセラレーター・伊藤健吾氏(中央)、ウィズグループ代表・奥田浩美氏(手前)

 2013年は後年、沖縄の起業史に新たなページを刻むだろう。特に3月はその種のイベントが目白押しであった。今回は、3月22-24日にOIST(沖縄科学技術大学院大学)シーサイドハウスで開催された第2回Startup Weekend Okinawaを中心に取材を行った。

 Startup Weekendとは、週末の短時間に集中し、特にインターネットを活用した新規ビジネスの構築を行う世界的なワークショップ・イベントである。開発者、企画者、学生から高齢者、日本人、外国人と幅広い層が集まり、2泊3日でビジネスプランの企画から実装を出来るところまで行う。東京では、2011年のStartup Weekend Tokyoで優勝した「ドリパス」(イベント時のチーム名は「filmity」)の成功事例が記憶に新しい。シードアクセラレータープログラムのOpenNetwork Labに採択された後、本年3月にはYahoo! Japanに買収された

 さて、今回のStartup Weekend Okinawaを振り返ると、各チームの企画や主題設定は決して悪くはなかったが、そこからアウトプットに至る過程が十分に練られておらず、誰に向けて何の価値をいかに提供出来るかという落とし込みが弱かった。

 音楽の一部分を共有するサービスが、今回審査員の最高得点を得た。動作デモも出来ており、Startup Weekendの評価軸を点数化すると、一番減点されにくいだろう。その反面、東京ではスタートアップがいかにも思いつく企画であることも事実だ。

今回の優勝チーム
tartup Weekend Okinawaの審査員と優勝チーム

 一方、沖縄男性の正装である「かりゆし」を、女性の正装としてブランド構築していくプランを披露したチームがあった。私には最も沖縄らしく、マーケティングやプロモーションの打ち方次第では、文化習俗に変革を与える可能性を感じさせた。しかし、Startup Weekendというフォーマットに合致していなかったのが残念であった。

 今回のStartup Weeked Okinawaの審査員を務め、Startup Weekend日本進出時に支援もしたfinder主宰の奥田浩美は、沖縄のスタートアップシーンは東京の3-4年前の状況、つまり、コミュニティとエコシステムがまだ立ち上がっていないと話す。

沖縄に足りないのは起業したい若者を受け止められる大人の存在

池村光次氏
01Startup代表の池村光次さん

 今回の主催者は、沖縄のスタートアップ・起業シーンの中心人物である01Startup代表の池村光次さんだ。宮古島出身、金融機関やベンチャー支援企業などで働き、東京で会社を経営する。現在は東京と沖縄を往復しながら、沖縄に新たな起業文化を作ろうと奔走中である。

 活動のきっかけは、昨年立ち寄った那覇での若いエンジニアたちとの出会いに遡る。池村さんが彼らのプロダクトを見せてもらったところ、ちゃんとプログラムを書けるスキルがあるのに、身内で見せ合うだけになっていた。起業やそれを支援する取り組みについての話に興味はなく、周りにもそういうチャレンジをしている人はいなかった。どこに就職するのかと聞けば、受託の会社で、給料は凄く安いと。

 東京には違う選択肢もあり、そこで普通の人が目を見張る成長を遂げているのを見てきた池村さんは、何かもったいないと感じたそうだ。「いま東京で行われているようなことを、沖縄でも出来ないか。」

「起業したい人はいるけれど、それを受け止められる大人がいない。」

 起業したい若者はいなくはないが、沖縄には、起業に対する知識が不足している。池村さんは続ける。
「ベンチャーを立ち上げたいと言うと、ネットワーク系のビジネスや悪質なアフィリエイトのビジネスに巻き込まれたり、学生の起業家塾に何十万も払ってしまったりなど、若者の起業に対してはネガティブなイメージがついています。」

 ましてや、「投資」という形態の資金に馴染みがない。昨年ある若者に出資の話があった時も、周囲の理解を得られなかった。県が主体となっている大型ファンドも有効に機能している様子がない。県内には、インキュベーション施設やインキュベーションマネージャーも数多い。しかし、そこに新規創業の相談に行っても、アイディアやモデルのレビューをするのではなく、事業計画書の数字の詰めに終始してしまうことが多いという。

 「そういうのはもったいないですよね。その前のニーズや、本人のやりたいことは何なのかを適切にメンタリング出来る人がいると、その子も伸びるし、お互い楽しいはず。ちゃんとした人が設計して、次のステップに渡してあげることが重要なんです。」(池村さん)

 Startup Weekend Okinawaの会場を訪れていた琉球大学産学官連携推進機構の宮里大八さんも、いま沖縄に欠けているのはメンター足りうる大人の存在だと語る。

 ここ数年沖縄で立ち上がり、事業化出来ているITベンチャーは、池村さんの知っている中ではゼロだ。
「沖縄では、受託している人たちがポジション的には上。独立しても、受託の人は凄い!という感じです。まずは都内のインキュベーションのアクセラレーター事業に採択されるだけでも、今はまだ十分成功だと思っています。そのためには弾をたくさん作ります。」

 交付金が潤滑油となり沖縄県内のIT産業は回っている。過剰な依存は起業家精神と逆行するが、そういった状況を上手く味方につけることも手段の一つである。沖縄にスタートアップという新しい選択肢が出来るのであれば、そこに健全な発展が生まれるよう、我々finderのチームも力を貸したい。

※「起業」という言葉の指し示す範囲は、人により異なることが多い。独立開業を含める人もいれば、法人立ち上げ、自社サービスを主とした事業運営、新規性、拡大指向などの条件を仮定する者もいる。ここでは、後者寄りの意味での「起業」を語っている。なお「ベンチャー(企業)」とは、新技術・知識を元にした創造的な事業を営む中小企業を指す一種の和製英語であり、IT業界では近年、同様の意味を持つ英単語「Startup(スタートアップ)」が使われる。