駅舎の解体を止め、駅から街へ人の流れを「デザイン」する延岡市
宮崎県北部の工業都市延岡では2010年、「延岡方式」と命名された駅舎と駅前再開発の画期的な手法がスタートした。駅を建て替え商業施設を併設するのではなく、市民活動の場としてにぎわいを醸成、交流の起点として機能させることを目指している。(参考:延岡駅周辺整備日誌)
そこで、「コミュニティデザイナー」としてStudio-Lの山崎亮さん、「デザイン監修者」として世界的な建築家の乾久美子さんを招聘。1年間で6回にも渡る市民参加のワークショップを経て、関係者との合意形成に基づいた建築案が発表された。地元の人には魅力に欠ける建物に見えていた駅舎は解体されず、新設される市民活動のエリアと同じ高さ・厚みの屋根に合わせることで、一体感をもった一部として残されることとなった。市民活動のエリアは、内部と外部が完全に隔てられるわけでもなく、かと言って完全にオープンでもない空間として、人と人との交流を促す工夫が施されている。
現在は実際に建築するための準備段階に入っている。乾久美子建築設計事務所から山根俊輔さんが、建物の完成のために延岡へ移住。2013年5月、地元の建築家・遠藤啓美さんらとともに、市内の空き店舗に協働事務所を設置した。ジョイントベンチャー(JV)という手法だが、普通は基本設計などを全て東京で行い、実施設計や現場監理などの作業を地元が下請けをする。しかしここでは、基本構想、基本設計から監理まで、全てを東京と延岡が対等の立場で行う。東京と延岡はSkypeで繋ぎ、あたかも同じ設計室のように一緒に作業を進めている。
10年後・20年後に町が元気になっていたら、この建築は成功したと言える
写真:乾久美子建築設計事務所山根俊輔さん(左)と小嶋凌衛建築設計事務所の遠藤啓美さん(右)(駅まちプロジェクトの事務所にて)
ワークショップでは、一市民として夢を語っていたという遠藤さん。現在は地元の建築士として、プロジェクトを現実化させる立場だ。
「今回のプロジェクトは『素晴らしい駅を作る事』が目的ではないのです。駅に賑わいをつくり、町に人が集まる仕掛けをつくることです。でもそれは、5年、10年、もっとかかると思います。その時には、東京の乾さんも大阪の山崎さんも、もう延岡にはいません。そのために私たちは、出来る限り今のうちに一流の建築家やコミュニティデザイナーの考えを吸収し、10年後、20年後に間違った方向へ延岡の町が進んでしまわぬよう頑張らなければなりません。
それは、私一人では出来ることではないので、出来る限り今の段階から地元の建築士にもこのプロジェクトに参加してもらい、共に勉強しているところです。山崎亮さんや乾久美子さんは、地元を育てる事が、町づくりの成功の鍵だと思っているのだと思います。」(遠藤さん)
典型的な企業城下町であった延岡は箱モノを選ばず、コミュニティデザインに基づく長期的な市民参加型の町づくりを選んだのだ。