日南市役所・河野健一さん

投稿日時:2013-06-26 8:00 AM

MOMA Storeにも挑戦中 – 地域の資源・飫肥杉に光を当てる日南市

 2013年4月、33歳の﨑田恭平新市長が誕生した日南市。その市長よりも高い年俸で駅前商店街活性化の人員を公募し、早速注目を浴びている。(2013年5月取材)

 市内を流れ、かつては両岸に貯木場や製材所が並んでいた堀川運河。ここに、飫肥杉復興の象徴として地元の木材で作られた橋を架ける計画が持ち上がった。町の歴史を学ぶ場、観光、産業振興と多岐にわたる役割が期待されたが、既存の行政の組織形態では対応に限界があった。そこで、飫肥杉の活用を部門横断で取り組む「飫肥杉課」が2007年日南市役所に誕生した。同課の河野健一さんにお話を伺った。

 その後、飫肥杉を広く身近に感じてもらうため、商品化の動きが出る。デザイナーの南雲勝志さんにより、「obisugi design」としてまず2009年に家具が商品化された。第二弾としてギフト品も制作。デザイン性を重視したプロダクト、その見せ方が評判を呼び、飫肥杉を使いたいという問い合わせが日南市役所に舞い込むようになった。元々は丸太を売る地域であり、家具や小物の産地ではない。南雲さんによると、それがむしろ良かったのだという。伝統技術があると、逆に新しい提案と対立してしまう恐れがあったからだ。

 デザイン・プロダクトの方向からブランディングが少しずつ出来てきたが、課題も多い。まず、「obisugi design」はネット販売のみ(ここここなど)であり、お土産を含め市内で買える場所が存在しない。また、内田洋行が高級オフィス家具として販売しているが、もう少し安価で多くの人に触れてもらえるラインが準備出来ていない。

40年もかけて育てた杉の木1本の山での価格は?

飫肥杉の机と椅子
写真:飫肥杉がふんだんに使われた日南市役所の会議室

 さらに、そもそも木の価格だ。40年もかけて育てた杉の木1本の山での価格は、約700-800円程度にしかならない。切ると損とは、山を持っている人の感覚だ。ところが、太くなった木は銘木どころか売れ残ってしまう。太すぎると製材所の機械に入らないからだ。気候条件や土壌の影響で成長の早い飫肥杉は、早くその悩みが来てしまう。価格が安いため切るのを待つ、すると、逆に使えない木になってしまうという負のスパイラル。

 宮崎県は22年連続で、杉の丸太の生産量が全国一である。にも関わらず、山に立っている木の成長量から伐採された生産量を引くと、1時間辺り300立方メートル増えているという。これは標準的な木造家屋12件分に相当する。

 飫肥杉全体の流通量からすると、「obisugi design」のようなプロダクトは10%にも満たない。しかし、こういう取り組みを通じ、多くの市民に関心を持ってもらう役割は大きい。現在は、まちづくりGIFTの齋藤潤一さんを中心に、「obisugi design」をニューヨークのMOMA Storeで取り扱ってもらえるよう挑戦している。地元の人には、安い、ダサい、昔のものという印象が根強い飫肥杉。評価の逆輸入がNYCから起きることが期待されている。

 「モノづくりから始まっているので、技術の継承や、もっと山にお金を回す仕掛けは、まだまだこれからです。杉をテーマに、役所の中の横の繋がり、行政と民間、外の専門家との繋がりが出来たので、杉と何かの繋がりを作っていきたい。」(河野さん)