地域おこし協力隊員が見た集落の人口減少と歯止め策 – 島根県美郷町から
地域おこし協力隊とは、国の事業で2009年に開始された。ハコモノ・道路工事に変わる地方振興策として、都会の人材を地方へ送り、現地で活動をしてもらい、将来的には、隊員の現地での定住に繋げる政策である。具体策は受け入れ先の自治体に委ねられており、人材を活用出来る企画力・運営力が求められる。2012年7月1日時点で、隊員数473人、実施自治体数は4府県・169市町村に上る。2012年10月23日(火)9時よりフジテレビ系列で放映の「遅咲きのヒマワリ」で生田斗真さんが演じる主人公は、地域おこし協力隊員という設定になっている。
総務省の外郭団体・移住交流推進機構(JOIN)のサイトによると、
“地域おこし協力隊は、人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に誘致し、その定住・定着を図ることで、上記のような意欲ある都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とする取組です。具体的には、地方自治体が都市住民を受入れ、地域おこし協力隊員として委嘱し、一定期間以上、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、住民の生活支援などの各種の地域協力活動に従事していただきながら、当該地域への定住・定着を図っていくものです。”
また、総務省のサイトによると、特別交付税による財政支援として隊員1人につき350万円を上限(=報酬等(上限200万円)+活動費(上限150万円))として支給され、活動期間は1−3年。住民票を現地に移して地域協力活動を実施するとある。
島根県美郷町(みさとちょう)の比之宮地区は、全人口の約半分が65歳以上の高齢者。迎えてくれたのは、地域おこし協力隊員の小川珠奈さん、内山伸昭さんの二人。年齢も性別も全く異なる、非常にユニークなコンビだ。
住民は人口減少を食い止めるため「新しい風」を吹かせたいと、同町は地域おこし協力隊制度を利用した。しかし住民には「新しい風」の具体的なイメージはなく、「何かしてほしい」「なるようにしかならない」という半分あきらめ状態であったという。二人は現在、人口減少を食い止めることを最大の目標として、そのいくつかの課題の解決を図っている。
ツアー参加者に日之宮地区の説明をする協力隊員の内山伸昭さん
アメリカの大学で貧困問題を研究し、世界中の問題を目の当たりにした20代の小川さんは、自分が実際に扱える身近な問題・自分の問題意識の解決として、土地に根ざして暮らす過疎地にやって来たという。一方50代の内山さんは、これまでの経験を活かし、小川さんが発案したアイディアのビジネス化、特に資金調達を得意とする。
二人は、集落の人口減少の原因と対策を3つに分けた。その主なものを上げると、
・地域内部の掘り起こし
地域密着型ラジオ番組、週一回の英会話教室、週末のカラオケバー(本地域には店が一軒もない)などを企画・運営し、住民の交流・地域の魅力発掘を促す。また、小川さんが農作業を教わることで、住民の知恵や、自然の中での営みの価値を住民自身で再確認してもらっている。
・地域の情報発信
地元の専門学校の学生と地域住民が共同でwebサイトを作る。子ども記者クラブを結成し、そこで子ども目線での地域情報の発信を準備中だ。ちょうど我々が訪れた時にも、子ども記者からインタビューを受けた。
・現金収入源の確保
耕作放棄田を養殖するための池に変え、高級淡水魚・ホンモロコの生産を計画している。深さ20cm以上の池にするには、造地法による様々な手続きが必要である。だが、そこを15cmにとどめることで開発をスピードアップ。魚は東京などへ出荷し、販路開拓を目指す。
成果を上げられる地域おこし協力隊事業とは?
見えてきた成果としては、地元の信頼を得たことが最も大きいという。空き家や土地情報を寄せてくれるようになり、UIターンの受け入れ体制作りのために地域住民が動き始めたそうだ。
地域おこし協力隊事業には、失業者対策の面もあるといわれている。しかし、何らかの理由により都会で働く機会を失った人が、のんびりと働くために地方へ赴く程事情は簡単ではない。
派遣先の場所にとっては初めはよそ者扱い。わざわざ来てくれたということで歓迎されもするが、本気で何かをしていくには、自分から積極的に動き、現地の人と溶け込むコミュニケーション能力が求められる。あるいは、これまでの経歴やスキルを現地で活かせる人。実際、協力隊員として続いている人には、そういう人が多い。美郷町の小川さん、内山さんはそれぞれの例だろう。
そして、その成否に重要なのが、彼らを活用する地域側、特に地方自治体の企画力や受け入れ態勢だ。その成功事例として注目を集めているのが、次にお届けする「A級グルメの町」邑南町のケースである。