スマホアプリを活用し見せ方に工夫を凝らす、高知の見元園芸を訪ねる
finderレポーター制度を開始しました。地域をテーマにしている点と、写真をちゃんと撮れていることが判断の基準です。初回は、自分の企画したスマホアプリを活用する高知のユーザーに会いに行ったSDNA(ソニーデジタルネットワークアプリケーションズ)の飯沼亜紀さん。(編集担当:本田)
見元園芸という会社が高知県にある。商品を販売する際「従来とは違う見せ方」にこだわる会社だ。例えば独自に開発したビオラはその形をウサギの顔に見立て、ウサギの絵がついたラベルをつけて販売し、園芸ファンから人気を博している。
同社では、さらに新しい見せ方の一環として、million momentsというスマートフォン向けアプリを活用している。撮った写真を振り返り、詰まったストーリーを感じるためのアプリとして、私がコンセプト企画を担当した。このアプリに写真を取り込むと、写真が自動的にアルバムのようにレイアウトされる。そのアルバム内のページをFacebookに投稿したり、広告に掲載したり、プリントアウトしたものをイベント出展時の飾り付けなどに使ったりしている。
同社の主力商品であるビオラなどの小さい花はmillion momentsでレイアウトすると映えるからと、営業担当社員からの提案で始めた。レイアウトには日付が自動で入るため、花のように季節感のある商品とは相性がよいとも感じているそうだ。
その見元園芸が、同じく高知に住む社会起業家のジョン・ムーアさんとタッグを組み、こだわり抜いて生み出した新商品を発売するという。自分の企画したアプリを使ってくれるお客さんと会ってみようと思い立ち、私は高知を訪れた。(取材:2012年11月)
若い世代にも興味を持ってもらうための活動として導入
まずは見元園芸の社長・見元一夫さんにお会いした。
実は最初に社員からmillion momentsを紹介されたときの第一声は、「こりゃ稼げん!」だったそうだ。しかし、花の新しい見せ方や顧客への話題の提供について検討を重ね、若い世代にも興味を持ってもらうための活動の一環としてmillion momentsの活用を決めた。新聞広告にmillion momentsの画像を使ってからは店舗内で写真を撮るお客さんが増えるなど、効果も少しずつ見えてきた。意外なことに、海外の取引先からも反響がある。
最近では工夫も生まれてきた。「例えば全体が分かる写真と接写の写真を織り交ぜるとか、違うアングルで撮った写真を取り込むようにするというように、良いレイアウトにするためにいくつか心がけています。」と教えてくれた。
million momentsは使う人に手間がかからないように設計している。逆に言うと、高度な編集ができず、カスタマイズの余地が少ない。それを理解した上で、取り込む写真に工夫をこらしていることに私は驚いた。
アイルランド出身のジョン・ムーアさんとタッグを組む
その見元さんと一緒に新商品をつくったのが、アイルランド出身のジョン・ムーアさんだ。
ジョンさんは世界各地でシードバンクを運営し、「原種」と呼ばれる植物の種の収集・保存や、その種を自分たちの手で育てていく活動をしている。祖母が家で野菜を育てていたため、幼少期から自分の食べるものは自分で育てるのが当然だと考えており、常に植物に対する興味があったそうだ。
現在一般に出回っている種子は「F1種」と呼ばれる交配種で、在来種である原種とは異なり子孫を残す能力を持たない。農家が種を自家採取できないため、F1種の生産は全て種苗メーカーに委ねることになる。また、栽培に農薬・肥料が欠かせないF1種と比べて、原種には大きなメリットがあるとジョンさんが教えてくれた。「原種は何百年もその土地で育って、生き残ってきたものだから、強い。肥料も農薬もいらないし、手がかからない。」
高知市中心部から車で30分ほど移動すると見られる風景
世界各地で活動するジョンさんだが、日本人について「何も言わなくてもそれぞれが自分の役割を見つけて行動できる。この人たちとなら世界を変えられると思った。」と語ってくれた。
そして、日本の中でも特に高知の自然に魅せられ、高知に移り住んだ。「街に近いところに深い山があって、川があって、海もすぐ近くにある。こんなところ、他にない。」と語る。確かに、市街地から車で30分も走れば、かなり山深い地域に着く。
この豊かな自然の中で、肥料を使わないジョンさんの農法に欠かせない植物を見元園芸が育てている。それがクローバーだ。植物が育つのには窒素が不可欠だが、クローバーなどのマメ科の植物は空気中の窒素を土の中に固定する働きをする。そのため、ジョンさんは野菜を育てる際にクローバーを一緒に植える。
見元園芸はクローバーの育種も行っており、その登録品種数で日本一を誇る。その見元園芸が無農薬で育てたクローバーと、ジョンさんのこだわりの農法が繋がって、新商品が完成した。
完成した野菜栽培キット
その新商品が、この野菜栽培キットである。ユニークな形の鉢には、クローバーが植えられている。ここに野菜の原種の種を植え、育てることができる。鉢は山あいの田園風景である棚田をイメージした形になっているが、クローバーの根を全体に行きわたらせることを考えた末にこの形に行きついたのだという。
このキットがあれば、安心して食べられる野菜を自宅で育てることができる。その上、丈夫な原種の種とクローバーの窒素固定効果のおかげで、水さえあれば育てられる。まさに、ジョンさんの考える「自分の食べるものは自分で育てる」が体現された商品だ。
この商品には、見元園芸とジョンさんの双方の想いがつまっている。そのため、商品にかけたこだわりや商品が生まれるまでのストーリーを伝えたいという気持ちが強かった。その方法を検討するうちに、それまで商品写真をきれいに見せるために使っていたmillion momentsを活用する案が出た。
しかし、「今までのように商品の写真を見せるだけでは、その魅力が十分に伝わらないのでは?」と、私は思った。鉢はユニークな形だが、クローバーが見えているだけで肝心の野菜が全く見えないからだ。
商品写真がないアルバムを店頭に
売り場に置かれたアルバムには、商品の写真はなかった。
そこには、今までmillion momentsを使いこんできた見元園芸ならではの工夫があった。農場で撮影をする際には、商品だけでなく普段使っている道具や備品の写真も一緒に撮影しmillion momentsに取り込んでいたそうだ。そこから発想を得て、今回はあえて「商品写真がないアルバム」を作った。
鉢のイメージの元となった棚田の写真や原種が育つ地域の写真をmillion momentsでまとめ、それをプリントアウトしてアルバムを作成し、売り場に置いた。購入者にはアルバムのページをポストカードにしてプレゼントすることにした。
こうすることで、単なる商品説明ではなく、「商品の世界観も一緒に消費者にお届けする」ことができると見元さんは言う。
花や野菜とフォトビューアーアプリという、一見あまり関係なさそうな組み合わせからおもしろい取り組みが生まれたことや、自分がこだわりをもって携わった製品が同じく見元さん・ジョンさんのこだわりが詰まった商品の魅力を伝える役に立てたこと、それを自分の目で見ることができたことを嬉しく思った。